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2026/04/24

その固定残業代、今すぐ確認してください。――気づかず抱える数百万円のリスク

その固定残業代、今すぐ確認してください。――気づかず抱える数百万円のリスク

その固定残業代、今すぐ確認してください。――気づかず抱える数百万円のリスク

なぜ今、固定残業代の「再点検」が必要なのか
「月給に一定の残業代を含めて支払いたい」という経営者様は多いですが、実は労働トラブルにおいて最も慎重な設計が求められる項目の一つが、この「固定残業代」です。

【実際に起きたケース】

  • 社員数15名の製造業。固定残業代を10年間支払い続けていたが、退職した元社員から訴訟を提起される。
  • 問題は「基本給に残業代が含まれている」という曖昧な契約書の一文だった。
  • 裁判所は固定残業代を「無効」と判断。追加で支払った未払い残業代は約1,200万円。
    (※実際の事案を参考にしたモデルケースです)

制度自体は違法ではありません。ただし、設計と運用に「落とし穴」があります。そして怖いのは、経営者も担当者も、問題が起きるまで気づかないことです。

1.なぜ今、固定残業代が「危険」なのか

固定残業代は、正しく設計すれば合法的な制度です。しかし近年、次の3つの変化が重なり、これまで問題なかった会社でも突然リスクが顕在化するケースが増えています。

  1. 最低賃金の急上昇
    ここ数年、最低賃金は毎年大幅に引き上げられています。固定残業代を「除いた」基本給が最低賃金を下回ると、制度全体が無効になるリスクがあります。数年前に設定したまま見直していない会社は要注意です。
  2. 未払い賃金の「請求できる期間」が延長された
    2020年4月の法改正により、未払い賃金を請求できる期間が2年から「当面3年」に延長されました。つまり、過去3年分をまとめて請求されうる時代になっています。
  3. 退職後に訴えるケースが増加
    在職中は何も言わず、退職後に弁護士をつけて未払い残業代を請求するケースが増えています。「うちの社員はそんなことしない」は通用しません。人間関係が変わるのは退職後です。

2.固定残業代(みなし残業代)とは

固定残業代とは、実際の残業時間の有無にかかわらず、あらかじめ決めた分の割増賃金を毎月定額で支払う制度です。多くの企業では、給与計算の簡略化、人件費の安定化、生産性向上の促進等の目的で導入されています。たまに、「固定残業」を導入しているから、残業代は払わなくてよい。と誤解したお話を聞きますが、あくまで「割増賃金の前払い」という性質を持つものであり、「残業をさせ放題にするための制度」ではないことに注意が必要です。

  メリット デメリット
経営者
・毎月の給与額が安定する
・給与計算の手間が省ける
設定ミスによる未払いリスク
・残業が少なくても全額支払う義務がある
・固定残業代の減額・廃止は容易ではない
従業員
・早く帰るほど時間単価が上がる
・毎月の手取り額が保証される
・「定額働かせ放題」という不安を感じる場合がある

3.制度の有効性を左右する「3つの条件」

経営者と従業員の両者にメリットがある固定残業代ですが、固定残業代が法的に有効であると認められるためには、実務上、以下の3つの条件をクリアすることが重要です。

  1. 明確区分性(判別可能性)
    従業員が「どの金額が何時間分の残業代なのか」を客観的に区別できなければなりません。
    OK例:「基本給21万円、固定残業手当4万円(30時間分)」NG例:「月給30万円(残業代を含む)」
  2. 対価性(趣旨の合意)
    その手当が「時間外労働の対価」として支払われていることが、就業規則および雇用契約書や労働条件通知書で合意されている必要があります。名称が「職務手当」などであっても、雇用契約書等にその趣旨(残業代としての性質)を盛り込むことが必須です。
  3. 割増賃金額要件
    固定残業代の額が、実際の時間外労働時間に対して労基法37条の計算方法で算出した割増賃金額を下回る場合、その差額を追加で支払う義務があります。固定残業代の設定時には、必ず法定計算額との比較を行ってください。

【就業規則(賃金規程等)例】
第〇条(固定残業手当)

  1. 固定残業手当は、会社が必要と認めた従業員に対して、一定時間分の時間外割増賃金として支給する。
  2. 前項の場合における支給金額、計算方法及び対応する時間外労働時間は、雇用契約書において定める。
  3. 実際の時間外労働時間数に対する時間外割増賃金の額が、固定残業手当の額を超えた場合、会社はその差額を支給する

【雇用契約書例】

※固定残業手当は、〇時間分に対する割増賃金として、月額〇円を支給する。
固定残業手当の計算式は次の通り(式を記載)

固定残業手当は、法定外残業時間だけを対象としているのか?深夜労働時や休日労働時の割増賃金も含んでいるのか?などによっても、文言が変わってきます。実際に盛り込む文言は、会社の制度に合わせた内容にしましょう。

4.固定残業代を設定する際に、気を付ける計算実務

  1. 割増賃金の基礎(単価)に含めるべき手当

    固定残業代を算出する際、最も間違いやすいのが「割増賃金の基礎となる単価」の計算です。厚生労働省の指針に基づき、正しく分類する必要があります。

    割増賃金の基礎となる賃金から除外できるもの

      手当の例(条件に当てはまる場合のみ除外可)
    除外できる手当
    ・家族手当(扶養人数に応じた支給)
    ・通勤手当(距離や実費に応じた支給)
    ・住宅手当(家賃額に比例した支給)
    ・別居手当
    ・子女教育手当
    ・臨時的に支払われた賃金
    ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

    残業代の単価計算において、除外できる手当は法律で限定されています。これら以外はすべて単価に含めなければなりません。

    ココに注意!役職手当を算定基礎から外して計算するミスが散見されます。
    これは即、未払い残業代の発生(単価不足)に直結するため、非常に危険です。

  2. 絶対にやってはいけない「最低賃金割れ」

    現在、多くの企業が直面しているのが「最低賃金改定に伴う制度の形骸化」です。大幅な最低賃金引き上げにより、「気づかないうちに最賃割れを起こしていた」というケースが多発しています。この場合、制度全体が無効とされるリスクがあります。

    固定残業代は「割増賃金」としての性質を持つため、最低賃金の比較対象には含まれません。

    最低賃金を確認する時は、固定残業代を除外して計算を行う必要があります。固定残業代を含めた「給与総額」から最賃の計算を行っていませんか?今一度自社の計算を見直してください。

    ■最低賃金の対象とならない賃金
    最低賃金を計算する際、実際に支払われる賃金から以下のものを除外した額が対象となります。

      除外される賃金の詳細
    除外される賃金
    ・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
    ・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
    ・時間外労働、休日労働、深夜労働の割増賃金
    ※固定残業代もここに含まれます
    ・精皆勤手当
    ・通勤手当
    ・家族手当
  3. 固定残業代:金額設定のステップ
    • 単価の算出:基本給に加え、役職手当などの諸手当(最低賃金の対象となるもの)から1時間あたりの賃金を算出します。
      日給月給の場合:「月給(割増賃金の基礎に含めるべき手当等の合計)÷1か月平均所定労働時間」
    • 割増率の適用:「1時間あたりの賃金×固定残業時間数×1.25※以上」で固定残業代の金額を計算します。※60時間以下の法定時間外労働の場合
    • 最低賃金の確認:固定残業代を除いた最低賃金の対象となる賃金の合計額が、地域の「最低賃金」を上回っていることを確認します。
      日給月給の場合:「月給(最低賃金の対象となる賃金の合計)÷1か月平均所定労働時間」
  4. 運用上の鉄則:超過分は追加支給
    「固定残業代を払っているから、残業代計算は不要」というのは、経営上の大きな誤解です。
    • 追加支払いの義務:設定した固定残業時間を超えて労働した場合には、その超過分を追加で支払う義務があります。
    • 管理義務:超過分を把握するためには、結局のところ、全従業員の労働時間を正確に記録し続けなければなりません。

5.導入後の「減額・廃止」のハードル

固定残業代を導入した後、経営状況や組織変更に伴い「手当を廃止したい」「金額を下げたい」という場面が出てくることがあります。しかし、簡単に減額や廃止をすることはできません。

  • 不利益変更の禁止:固定残業代も「賃金」の一部です。一度導入し、雇用契約書等や就業規則に定めた場合、会社が一方的にこれを廃止・減額することは原則として認められません。
  • 同意の必要性:手当を廃止または減額するには、原則として対象となる従業員の個別の同意が必要となります。
  • 「残業がないから払わない」は不可:固定残業代の性質上、「今月は残業が少なかったから固定残業代を削る」といった運用は制度自体を否定することになります。残業がゼロであっても、契約した固定残業代は満額支払う義務があることを忘れてはなりません。

将来的な職務変更や降格に伴い手当を変動させる可能性がある場合は、導入時の就業規則に「どのような条件下で手当が変更・消滅するか」を細かく定めておく必要があります。

6.【義務】求人票への明示ルール

固定残業代を採用している場合は、職業安定法(第5条の3)により、「固定残業代」について適切な表示が必要となっています。ハローワークや求人サイト掲載の際には細かな指導がなされており、不明確な場合は掲載不可となってしまいます。

■明記すべき3項目
求人等を行う際には、以下の内容を漏れなく記載しなければなりません。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額→例:①基本給(××円)(②の手当を除く額)
  2. 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
    →例:②□□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
  3. 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
    →例:③○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
ワンポイントアドバイス

今すぐ自社の規定をチェックしてください

固定残業代は、正しく運用すれば労使双方にメリットのある制度ですが、メンテナンスを怠ると経営を揺るがす大きなリスクとなります。特に昨今の「大幅な最低賃金の引き上げ」や「未払い賃金請求権の時効延長(当面3年)」といった外部環境の変化は、これまでの「なんとなく」の運用を許さない状況を作り出しています。

経営者が今すぐ確認すべき「5つのセルフチェック」
固定残業代が問題になる会社には、共通のパターンがあります。次の5項目を確認してみてください。
1つでもNOがあれば、危険です。社労士への相談をお勧めします。

確認項目 YES NO
雇用契約書に「基本給〇〇円、固定残業手当〇〇円(〇時間分)」と金額と時間数が両方明記されている
固定残業代を「除いた」基本給だけで、地域の最低賃金を時間換算で上回っている
固定残業時間を超えた月は、超過分を別途支給している
月60時間を超える残業が発生した月は、50%以上の割増率で計算している
求人票にも「固定残業代〇円(〇時間分)、超過分は別途支給」と明記している

1つでもNOがあった方——放置するほど請求リスクは積み上がります。

固定残業代の運用において、最も危険なのは「導入して終わり」になってしまうことです。最低賃金の改定や割増率の変更など、外部環境の変化に合わせて制度をアップデートし続ける必要があります。今一度、貴社の就業規則や雇用契約書の文言を、今の実態に照らし合わせて確認してみてください。その細かな積み重ねが、将来の予期せぬトラブルから会社を守る手段となります。

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