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税務調査よもやま話【相続編Vol.5】
『株券の保管場所』
(1)申告された株式は
平成21年に上場会社の株券がすべて電子化され、紙の株券は発行されなくなりましたが、それ以前には、ご自宅で株券を保管される方がたくさんおられました。
これは、そのころのお話です。
ある相続税の申告書には、相続財産として、3億円を優に上回る100銘柄以上の上場株式が計上されていました。
被相続人様(亡くなった方)は生前、上場株式の配当所得を毎年確定申告されていましたので、私は相続税調査に先立ち、過去の所得税申告書に記載された株式と、相続税申告書に記載された株式の銘柄や株数を照合してみることにしました。
その結果、生前最後に提出された確定申告書と相続税申告書に記載された株式は、銘柄も株数もピタリと一致しましたが、過去に所得税の申告がありながら、ここ1~2年は無配当となって確定申告されていなかった銘柄の株式が、相続税申告書にも記載されていないことに気付きました。
無配当となったので売却されたとも考えられましたが、無配当分が申告漏れとなっている可能性もあると想定して相続税調査に臨むこととなりました。
(2)株券の保管状況は
調査当日、ご自宅にお邪魔すると、相続人様から「母屋の内装工事をしているので、裏の離れでお願いします。」とのお話があり、一階が倉庫、二階が居室となっている土蔵造りの離れに案内されました。
相続税の申告をした株券は取引先の証券会社には預けておらず、一階の倉庫にあるとのことで、さっそく案内していただいたところ、事業所の事務室で使用するような引き出しが数段あるスチール製のキャビネットがいくつもあり、その中に、紙製のケースに入れ銘柄ごとに分類された株券が整然と収納されていました。
無配当となった銘柄を含めて株券の入っていない空のケースも多数ありましたが、相続人様によると「生前に売却した銘柄だと思います。」とのお話しでした。 その後、株券の数量や記号番号などを記録する作業を始めましたが、何しろ膨大な量の株券のため、その作業には数日を費やすこととなりました。
私は、これだけの株式を管理するためには必ず管理記録を作成されていたはずと考え、その作業の間中、管理記録の提示をお願いし続けたところ、二日目の夕方になって、数冊の帳簿を提示していただくことができました。
その帳簿は、株式の取引履歴や保有株数、配当記録等を詳細に記録したものでしたが、そこではここ数年無配当となり確定申告されなくなった株式がまだ保有されていることとなっていたほか、驚いたことに、株主として総勢47人分の氏名が記載されていました。
(3)本当の保管場所は
帳簿に記載された氏名は何なのか、相続財産として申告された以外の株券はどこにあるのか、本当のことをお話しいただくよう相続人様を説得したところ、三日目になってようやく、被相続人様の親の代から、家族や親戚の名前を用いた借名取引で株式を保有しており、被相続人様はそれをそのまま受け継いで管理されていたこと、被相続人様が生前最後に確定申告した銘柄の株式のみを相続財産として申告したことを、お話しいただくことができました。
相続財産として申告された以外の株券は、母屋の寝室の押し入れの中に、数缶の一斗缶に詰めて保管されていましたが、調査当日に私が寝室に近付けないように、あえて調査の日程に合わせて内装工事を手配したということでした。
除外された株式を記録する作業には更に時間がかかりましたが、申告漏れの株式の価額は総額で約6億円となりました。