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2026/08/04

罰金50万円では済まない―熱中症死亡事故の賠償額4,800万円、義務化2年目の夏に経営者が確認すべきこと~2025年6月施行・職場の熱中症対策義務化を中小企業向けに解説~

罰金50万円では済まない―熱中症死亡事故の賠償額4,800万円、義務化2年目の夏に経営者が確認すべきこと~2025年6月施行・職場の熱中症対策義務化を中小企業向けに解説~

~2025年6月施行・職場の熱中症対策義務化を中小企業向けに解説~

「熱中症対策は大切だとわかっているが、うちはまだ努力目標の範囲だろう」と思っていないでしょうか。近年の酷暑を受け、環境省・気象庁が発表する熱中症警戒アラートの発表回数は2021年の613回から2025年には1,749回と、4年で約3倍に増加し、過去最多を更新しました。また、総務省消防庁によると、2025年5月から9月までの熱中症による救急搬送者数は100,510人と、統計開始以降で過去最多を更新し、初めて10万人を超えています。

こうした酷暑の常態化を背景に、2025年6月1日の労働安全衛生規則改正により、職場の熱中症対策は罰則付きの法的義務に格上げされています。企業規模を問わず、屋外作業だけでなく空調の効きにくい屋内作業も対象になり得る制度です。

2026年の夏は施行から2度目の夏にあたります。「昨年はとにかく対応したが、仕組みとして根付いているか自信がない」という会社も少なくありません。対策を怠った場合、罰金だけでなく、労災発生時の損害賠償や取引先からの信用低下など、中小企業にとって影響の大きいリスクが伴います。本記事では、熱中症対策義務化の内容と、対応を怠った場合に生じるリスク、今すぐ確認しておきたい課題を整理します。

1. 熱中症対策はすでに「義務」になっている

2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則により、職場の熱中症対策は「罰則付きの法的義務」へと格上げされています。施行初年の2025年、職場の熱中症死傷者数(死亡・休業4日以上)は1,803人と前年比約43%増で統計開始以来最多となる一方、死亡者数は19人と約39%減少しました。厚生労働省は改正による重篤化防止の効果と評価しており、対策は確実に命を守る一方で、発症リスクは年々高まっています。

義務化の内容は、「①早期発見のための報告体制の整備」「②重篤化防止のための措置手順の作成」「③その全作業者への周知」の3点です。

2. どんな会社・作業が対象になるのか

対象となるのは、WBGT値(暑さ指数)が28度以上、または気温31度以上の環境で、連続1時間以上、あるいは1日4時間を超える作業が実施されることが見込まれる現場です。屋外か屋内かは問われません。建設現場や農作業のような屋外作業はもちろん、空調が十分に効かない倉庫・工場・厨房なども対象になり得ます。また、作業場所は特定の作業場に限られず、出張先や複数の場所を移動しながらの作業、作業場所間の移動時間も含まれます(例: 訪問診療で複数の利用者宅を巡回する際の移動時間)。車での移動も例外ではなく、炎天下に駐車した車内は短時間で50度を超えることがあり、乗り降りを繰り返す訪問・配送業務では「車内だから安全」とは限りません。草むしりのような非定常・臨時の作業も、条件を満たす見込みがあれば対象です。

企業規模による除外規定もありません。従業員数人の会社であっても、対象条件に当てはまる作業がある限り、報告体制や対処手順の整備・周知が義務付けられます。

3. 対策を怠るとどうなるか-3つのリスク

  • 1. 刑事罰の対象になる
    義務付けられた措置を怠った場合、労働安全衛生法違反として6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。両罰規定により、実際に違反行為を行った行為者(現場責任者等)に加え、法人にも罰金刑が科される可能性があります。この行為者には経営者や現場責任者個人が含まれ得るほか、労働局長・労働基準監督署長から作業停止等の使用停止命令(安衛法第98条)を受ければ、現場そのものが止まります。実際に2026年7月には、熱中症で死亡した従業員の作業場に塩を備えていなかった疑い(安衛則第617条・従来からの塩・飲料水備え付け義務)で、建設会社と安全管理担当の課長個人が書類送検され、実名で報道される事例が出ています。

  • 2. 労災発生時に損害賠償責任を問われる可能性が高まる
    報告体制や対処手順が未整備のまま熱中症による死傷事故が発生すると、安全配慮義務違反として、労災保険の給付に加えて企業に対する民事上の損害賠償請求に発展するリスクがあります。熱中症による死亡事案では約4,800万円の賠償を命じた裁判例もあり、賠償額は数千万円から1億円規模に達することがあります。しかもこの裁判例は海外出張先での作業中に発生した事案であり、安全配慮義務は国内の事業場に限らず、海外を含む出張先にも及びます。罰金とは桁の違う経営リスクです。体制整備の有無は、責任の重さを判断する材料にもなります。

  • 3. 取引先・行政からの信用が低下する
    是正指導を受けた事実や労災事故の発生は、元請け・発注者からの信用低下につながる可能性があります。建設業など下請け構造のある業種では、安全管理体制が取引先選定の判断材料にされることもあります。

4. 特に注意すべき会社の特徴

以下のような特徴を持つ会社は、対応状況を早めに確認することをおすすめします。

建設業・造園業など屋外作業が中心の会社 炎天下での作業が日常的に発生し、WBGT値・気温の条件に該当しやすい業種です。
倉庫・工場など空調の効きにくい屋内作業がある会社 屋内であっても、高温になりやすい作業場は対象になります。「屋内だから対象外」という誤解に注意が必要です。
厨房・洗い場など高温多湿な環境で作業する飲食店 換気や空調の状況によってはWBGT値が基準を超えることがあります。
入浴介助など高温多湿な環境での作業がある介護事業所 浴室・脱衣室は湿度が高く、湿度の影響を強く受けるWBGT値は気温が31度に達していなくても基準を超えることがあります。屋内の対人サービスのため「うちは無関係」と見落とされやすい典型例です。
清掃業・警備業など屋外巡回や外部業務が多い会社 屋外での移動や巡回が長時間に及ぶ場合、対象条件に該当する可能性があります。
一人親方や外部委託先を含めて現場作業を行っている会社 自社の従業員以外にも、現場に関わる人への周知・体制整備まで意識できているかがポイントです。
派遣労働者を受け入れている会社・労働者派遣を行う会社 労働者派遣法第45条の特例により、本措置義務(安衛法第22条)は派遣先が負い、派遣先は派遣労働者も体制・周知の対象に含める必要があります。派遣元(派遣会社)は、派遣先にその対応を依頼・確認しておくことが望まれます。

5. 今すぐ確認しておきたい課題

課題① 自社の対象作業の有無確認(WBGT値・気温の実態把握)

影響範囲: 屋外作業・高温になりやすい屋内作業がある会社

現場の作業内容と作業時間 (連続1時間以上・1日4時間超か)を確認する

WBGT測定器の導入、または気象庁・環境省の暑さ指数情報の活用を検討する

「対象になりやすい会社」の具体例:炎天下での建設・造園作業がある会社/空調のない倉庫での長時間作業がある会社/厨房で火を使う工程が長い飲食店 など

⚠️
重要な理由: 対象条件に該当するかどうかの判断が、その後のすべての対応の出発点になります。「うちは対象外」という思い込みが最大のリスクです。

課題② 報告体制の整備(誰が・どこに報告するか)

影響範囲: 対象作業がある全ての会社

熱中症の自覚症状やおそれのある作業者を発見した際の報告先(担当者・連絡先)を決める

決めた報告先を全作業者に周知する方法(掲示・朝礼・就業規則への記載など)を検討する

「体制整備が手薄な会社」の具体例:報告先を口頭でしか伝えていない会社/現場責任者が不在時の代替連絡先を決めていない会社/パート・派遣従業員への周知が漏れている会社 など

⚠️
なぜ重要なのか: 報告体制がなければ「見つける」段階でつまずき、対処が遅れて重篤化するリスクが高まります。体制の有無は罰則の判断にも直結します。

課題③ 対処手順・緊急搬送先の整備と周知

影響範囲: 対処手順が未整備の会社

緊急連絡網や近隣の医療機関・救急搬送先の連絡先・所在地を整理する

作業離脱、身体冷却、水分・塩分補給などの対処手順を文書化する

「未整備の会社」の具体例:マニュアルを作らず現場の判断に任せている会社/近隣の医療機関を把握していない会社/救急搬送の判断基準が定まっていない会社 など

⚠️
ポイント: 手順があるかどうかで、実際に熱中症が疑われる場面での対応スピードが大きく変わります。夏本番を迎える前に一度整理しておくと安心です。

課題④ 従業員教育・周知の実施

影響範囲: 新人・パート・派遣が多い会社

報告体制・対処手順を朝礼や研修などで周知する機会を設ける

熱中症の初期症状(めまい・立ちくらみ・大量の汗など)を従業員に知ってもらう

「周知が行き届きにくい会社」の具体例:入れ替わりの多い短期アルバイトを雇用している会社/多言語対応が必要な外国人労働者がいる会社/複数の現場に分散して勤務する従業員が多い会社 など

⚠️
ポイント: 周知は体制整備・手順作成と並ぶ法律上の義務です。①②で土台を固めたうえで、掲示や朝礼など日常業務の中で継続的に周知・教育を行いましょう。実際、2025年の熱中症死亡災害19件のうち9件では、熱中症予防の労働衛生教育の実施が確認できませんでした。

6. 改正前と改正後の比較

項目 改正前(2025年5月まで) 改正後(2025年6月1日~)
対策の位置づけ 通達・ガイドラインに基づく対応(法的義務なし) 労働安全衛生規則に基づく法的義務
報告体制の整備 求められていたが義務ではなかった 事業場ごとに整備・周知が義務
対処手順の整備 明文化されていなかった 緊急連絡網・搬送先を含め整備・周知が義務
違反時の罰則 なし 6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(両罰規定あり)
対象企業規模 - 企業規模を問わず対象条件に該当すれば義務

法的義務となる前は「望ましい対応」として扱われてきましたが、改正後は未対応そのものが法令違反となる点が大きな違いです。

7. 「うちは大丈夫」という思い込みに注意

改正から1年以上が経過し、初年度は多くの会社が対応に追われましたが、2年目を迎えるいま「昨年一度対応したから大丈夫」と考えてしまうケースが見られます。しかし、新しく入った従業員に体制が周知されていなかったり、担当者が異動して報告先が形骸化していたりするなど、運用が続いているかどうかは別の問題です。

また「屋内だから対象外」「去年は熱中症が出なかったから今年も大丈夫」といった思い込みも注意が必要です。対象条件はWBGT値や気温、作業時間で決まるものであり、業種や過去の実績では決まりません。毎年の気温上昇を踏まえると、昨年基準に該当しなかった現場が今年は対象になることも十分にあり得ます。

8. 中小企業が特に注意したいポイント

熱中症対策の義務化は企業規模を問わず適用されますが、中小企業には次のような固有の事情があるため、特に注意が必要です。

産業医や専任の安全衛生担当者がいない会社が多い 体制整備や周知の実務を、経営者や現場責任者が兼務で担っているケースが多く、対応が後手に回りやすくなります。
一人親方や外部委託先への周知が漏れやすい 建設業などでは、自社の従業員だけでなく現場に関わる一人親方や協力会社の作業者への配慮も欠かせません。周知義務の対象は「作業に従事する者」であり雇用する労働者に限定されず、混在作業では元方・関係請負人の双方に措置義務が生じます。さらに2027年1月1日からは、一人親方等の個人事業者が業務上の災害で死亡または4日以上休業した場合、直近上位の注文者等に労働基準監督署への報告義務が課されます。一人親方の熱中症も「自社が報告すべき災害」になる以上、体制・周知の対象から外す理由はありません。
WBGT測定器などの設備投資が後回しになりやすい 大企業に比べて投資の優先順位付けが難しく、対策が「掲示物を貼るだけ」で終わってしまうケースがあります。
熟練の職人・高齢の従業員ほど「自分は大丈夫」と対策を怠りがち 経験豊富な従業員ほど自身の体調管理を過信しやすく、実際には高齢者ほど熱中症のリスクが高いというデータもあります。
小休憩や水分補給が「サボり」と見られやすい職場風土 水分補給や小休憩に周囲の目が厳しい職場では申告や発見が遅れ、報告体制を整備しても機能しません。休憩を個人の裁量に委ねず、WBGT値や気温に応じた休憩サイクルをルール化し、管理者や熟練者が率先して実践することで、取りやすさと取り過ぎの防止を両立できます。体調不良の申告は責めない方針の明示も欠かせません。
罰金より事業継続への打撃の方が深刻な場合がある 労災事故が発生した場合、罰金以上に、休業による現場停止や、取引先からの信用低下、人材確保への悪影響など、中小企業の経営そのものに響くリスクがあります。
ワンポイントアドバイス

「去年やったから大丈夫」ではなく、毎年の運用確認を

まずは自社の作業がWBGT値・気温・作業時間の対象条件に該当するかを確認し、該当する場合は報告体制と対処手順が最新の状態になっているかを見直すことをおすすめします。罰則の有無だけでなく、労災発生時の損害賠償リスクや事業継続への影響まで考えると、対応の優先度は決して低くありません。

熱中症対策の体制整備や労務管理全般については、早めに社会保険労務士・税理士にご相談ください。

ミカタグループでは、労務の実情に即したサポートを行っています。お気軽にご相談ください。

【参考資料】
・厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」
・厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」
・労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第57号)

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