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2026/09/01

「年収の壁」が大きく変わる!企業が今すぐ着手すべき労務・税務対応の全体像

「年収の壁」が大きく変わる!企業が今すぐ着手すべき労務・税務対応の全体像

「年収の壁」が大きく変わる
企業が今すぐ着手すべき労務・税務対応の全体像

2026年10月から社会保険の加入要件が「週20時間以上」の勤務時間ベースに移行します。あわせて所得税・扶養控除の基準も相次いで引き上げられ、いわゆる「年収の壁」の景色は数年前と大きく変わっています。

「うちはパートが少ないから関係ない」「以前、対応済みだから大丈夫」——そう思っている経営者ほど、気づかないうちに保険料未払いや契約不備のリスクを抱えています。

本記事では、改正の全体像を整理したうえで、企業が優先的に対処すべき課題を「緊急度×影響範囲」の観点から解説します。

1.2026年、「年収の壁」は何が変わったのか

所得税・扶養控除の壁が大幅に引き上げ

かつて「103万円の壁」と呼ばれていた所得税の課税基準は、2025年度改正で160万円に引き上げられました。さらに2026年度改正では、給与収入だけで換算すると178万円が所得税課税の目安となります。

これに連動して、税法上の扶養・配偶者控除の基準も変わりました。社会保険側の扶養基準の変更点もあわせて整理すると、次のとおりです。

区分 変更後の水準
扶養親族・同一生計配偶者等の所得要件(給与収入換算) 136万円以下
配偶者特別控除が段階的に縮小する範囲 136万円超~207万円以下
所得税の課税目安(給与収入換算) 178万円
【社会保険】19歳以上23歳未満の親族等(被保険者の配偶者を除く)の被扶養者認定年収要件 150万円未満に引き上げ

社会保険の「106万円の壁」が「週20時間の壁」に変わった

2026年10月からの最大の変更点がここです。従来、短時間労働者が厚生年金・健康保険に加入する目安は「年収106万円以上」という賃金要件でしたが、これが「週20時間以上」の勤務時間要件に移行しました。

これが意味するのは、「月収を8万8000円以下に抑えれば加入しなくていい」という就業調整がそもそも通用しなくなる、ということです。週の所定労働時間が20時間以上であれば、収入の多寡に関係なく社会保険の加入対象となります。ただし、当面の対象は特定適用事業所(厚生年金保険の被保険者が常時51人以上の事業所)に限られ、この企業規模要件は2027年10月以降、段階的に撤廃される予定です。また、「雇用見込み2か月超」「学生でないこと」という要件は引き続き残ります。

一方の「130万円の壁(社会保険の被扶養者)」はそのまま残存しており、これを超えると扶養から外れ、本人が国民年金・国民健康保険に入るか、勤務先で社会保険に加入することになります。

2.企業経営への3つの影響

  1. 労務費(社会保険料)の増加
    社会保険の適用拡大によって加入者が増えれば、本人だけでなく企業側の負担も増加します。週20時間以上勤務するパート・アルバイトが多い業種(小売・飲食・介護など)では、一人あたりの人件費が実質的に上がることを前提に、採用計画や予算を組み直す必要があります。
  2. 給与計算・年末調整まわりの事務負担増
    給与計算・年末調整・扶養確認といった事務フローの全面的な見直しが求められます。社内向けの説明資料の改定、給与計算ソフトの計算ロジックの確認、さらには対象従業員への個別説明と対応記録の整備が必要です。なかでも影響が最も大きくなるのは 12月の年末調整のタイミングです。
  3. 労働条件通知書・雇用契約書の記載要件が厳格化
    2026年4月から、社会保険の被扶養者認定(130万円の壁)は、実際の収入実績ではなく、労働条件通知書に記載された収入見込みで判定される仕組みになりました。なお、この新しい判定方法は給与収入のみの方が対象で、年金・事業・副業などの収入がある場合は従来どおりの判定です。また、判定上の年間収入には通勤手当などの諸手当も含まれます。 具体的には、「時給」「週所定労働時間」「契約期間」「見込み年収」を書面に明記することが求められます。また、労働契約に規定のない時間外労働に対する賃金は、被扶養者認定における年間収入の見込額には原則として含まれません。一方で、実態より不当に低い賃金を契約書に記載していた場合は認定が取り消されるリスクがあるほか、社会保険の加入判定(週20時間)では、恒常的な残業により実労働時間ベースで加入対象と判定されることがあります。そのため、「所定内賃金・所定労働時間」と「実残業・一時的残業」を厳密に区分して管理することが必要です。

3.今すぐ対処すべき4つの課題——優先順位つき

【最優先】
対象者の洗い出しと加入状況の再点検
緊急度
影響範囲
全社
週の所定労働時間が20時間前後の人(常態化した残業も含めて再確認)
月収が約8万8000円前後の人
学生・配偶者扶養の範囲内で就業調整している人
年収が130万円前後の人
なぜ最優先なのか:
加入漏れが発覚した場合、最大2年遡って保険料を納付しなければならないリスクがあります。遡り加入となった場合、従業員負担分の保険料の回収が事実上困難になるケースも少なくありません。気づかずに放置するほどリスクが積み重なる性質の問題です。
【優先②】
労働条件通知書・雇用契約書の記載内容を更新する
緊急度
影響範囲
新規採用・契約更新のタイミング
時給・週所定労働時間・契約期間・見込み年収を明記しているか
残業が常態化している場合、実労働時間ベースで社会保険の加入対象と判定される可能性を踏まえ、実態と記載内容が一致しているか
短時間労働者の加入要件(週20時間)に関する記載が旧基準(年収106万円)のままになっていないか
ポイント:
契約書の更新は新規採用・契約更新のタイミングで順次対応するのが現実的ですが、現行の書式に重大な記載漏れがある場合は全件見直しを優先してください。
【優先③】
対象従業員への丁寧な説明と手取りシミュレーションの実施
緊急度
影響範囲
加入対象となる従業員
厚生労働省の手取りシミュレーターを活用し、就業調整した場合と社会保険加入して働く場合を比較提示する
傷病手当金・出産手当金・将来の年金受給額の増加といった社会保険加入のメリットを具体的に伝える
「従業員が働き方を選択できる」という姿勢で対応する
なぜ重要なのか:
従業員が「社会保険に入ると手取りが減る」と誤解したまま就業調整を続けると、企業にとっても人手不足が解消されません。正確な情報提供が、人材の定着と労働時間の最大化につながります。
【優先④】
就業規則・社内規程・各種手当の見直し
緊急度
中〜低
影響範囲
規程・手当設計の全般
家族手当・扶養手当の要件(給与収入の上限額)を新しい制度水準に合わせて更新する
資格手当・子育て支援手当・企業型DC(確定拠出年金)など扶養要件に左右されない手当への組み替えを検討する
「社会保険適用促進手当」の特例措置を規定している場合は、最新の制度内容を確認する
なぜ後回しにできるのか:
緊急度は相対的に低いですが、対応を放置すると将来的な制度変更のたびに場当たり的な修正を繰り返すことになります。次回の契約更新期や年末調整前を目処に着手することをお勧めします。

4.助成金・特例措置の活用は「慎重に」

政府の「年収の壁・支援強化パッケージ」として用意されている助成金等の活用も選択肢に入りますが、注意が必要です。

「キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)」は要件が厳しく、対象者のみ賃上げを行うと社内で賃金の逆転現象が起きるリスクがあります。全社的な賃上げを計画している企業向けの制度であり、個別対応のコストを補填する目的には向いていません。

また、従業員の手取り減少を防ぐ「社会保険適用促進手当」の特例措置(標準報酬月額算定除外の取り扱い)は、関連助成金を含めて制度全体が見直しの過渡期にあります。就業規則に規定している企業や新たに規定を検討している企業は、保険者(年金事務所・健康保険組合)に最新の取扱いを確認の上で対応を判断することをお勧めします。

ワンポイントアドバイス

求められるのは「壁を越えても納得できる設計」へ

「年収の壁」の変化は、短期的には企業の保険料負担と事務負担を増やします。しかし裏返せば、就業調整によって本来発揮できていなかった労働力を掘り起こせる機会でもあります。

人手不足が深刻な今、「壁を超えないように働いてもらう」という旧来の発想を維持し続けることは、採用競争力の低下にもつながります。従業員に正確な情報と選択肢を提示し、契約・賃金・手当の設計を整えることができれば、就業調整を減らし、人材の定着と労働時間の最大化が期待できます。

これからの企業対応のキーワードは、「社会保険に入っても納得して働ける設計に変える」ことです。制度変更を単なる負担増としてではなく、労務管理の土台を整える好機として捉えてください。

【ご案内】

対象従業員の洗い出しや、雇用契約書・就業規則の見直しについては、専門家への相談を早めに行うことをお勧めします。
ミカタグループでは、社会保険労務士・税理士が連携して、企業の実情に即した対応をサポートしています。お気軽にご相談ください。

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