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2026/08/28

【第3回】「辞めた後は無関係」では済まされない!外国人労働者の退職に潜む、見えない経営リスク~新しい時代に向けて〜

第3回「辞めた後は無関係」では済まされない!外国人労働者の退職に潜む、見えない経営リスク~新しい時代に向けて〜

人手不足の抜本的な解決策として外国人労働者の採用を進める企業が増える一方で、実務の現場で見落とされがちなのが「退職・帰国時」の手続きです。外国人労働者の退職実務には、日本の労働関連法規だけでなく、入管法や雇用保険法などに基づく特有の義務が存在します。これらを怠ると、企業が法的なペナルティを受けるだけでなく、将来の外国人採用計画がストップするなど、経営の根幹を揺るがす思わぬトラブルに発展するリスクがあります。

本記事では、外国人労働者の退職に伴う特有の手続きや帰国後の経済的支えにもなり得る「脱退一時金」の仕組みなど、実務の背後にある法的な経営リスクと共に対比しながら、大転換期を迎える外国人雇用対応を解説します。

1. 外国人労働者の退職時における日本人労働者との相違点

日本人が退職する場合、労働基準法に則った退職金の精算や社会保険等の資格喪失手続きを適正に行えば、その後の動向は会社が関与する領域ではありません。しかし外国人の場合は、日本での「在留資格(ビザ)」を保持したまま会社を離れるため、退職後の動向が会社側の「雇用主としての法的責任」や「企業の社会的信用」に直結します。

会社として最も警戒すべきは、元社員が適切な手続きを行わずに日本国内に留まり、不法滞在や不法就労状態に陥ることです。万が一そのような事態を起こした場合、出入国在留管理庁(入管)の調査対象となる可能性があり、今後の新規受け入れ(特に特定技能や専門職など)の審査において著しく不利な扱いを受けるという、深刻な経営リスクを内包しています。

2. 退職に係る困ったケース別・押さえるべきポイント

能力不足、在留カードの期限切れ、突然の失踪など、外国人雇用における労務トラブルは深刻です。会社のとるべき対応を一歩間違えれば、不当解雇で訴えられたり不法就労助長罪に問われたりするリスクがあるため、以下のケース別の対策を必ず押さえておきましょう。

 ① 「聞いていたスキルと違う」「日本語が通じない」等、能力不足で解雇を検討するケース

「即戦力のIT技術者のはずが仕様書すら読めない」「日本語での指示が伝わらず現場が回らない」 。こうしたミスマッチから、社長が業を煮やして「明日から来なくていい」と口頭解雇してしまうケースが後を絶ちません。
しかし、これに反発した元社員が外部の労働組合(ユニオン)に駆け込み、「外国人差別による不当解雇だ」として突然、数百万円の解決金を請求されるトラブルが多発しています 。

なぜ「外国人だから」で会社が負けるのか?

日本の労働法は労働者保護が極めて強く、主観的な能力不足だけでの即時解雇はほぼ不可能です。

さらに外国人の場合、裁判や労働審判では「会社は本人が100%理解できる言語で、改善のチャンス(教育)を十分に与えたのか?」が厳しく問われます。これがない解雇は一発で「不当解雇」と判定されるリスクがあります。

会社を守るための具体的な対策

事前の対策:入社前に「期待値」の言語化

雇用契約書や職務記述書で、求める役割、必要なスキル、業務範囲を明確に定義し、本人と言語を合わせた(または対訳付きの)書面で交わしておきます。

事後の対策:「理解できる言語」による改善指導とエビデンス(書面)化

本人が確実に理解できる言語(英語・母国語・易しい日本語)で指導を行い、「能力向上の機会を与えた記録」を必ず書面で残します。これが裁判での会社の自衛手段になります。

退職勧奨(合意退職)による安全な着地

指導を尽くしても改善しない場合、一方的な解雇ではなく、積み上げた指導記録をベースに面談を行い、納得の上で「退職合意書」にサインをもらうプロセスを踏むのが鉄則です。

 ② 在留カードが切れた場合(在留期間更新の不許可・失念)

在留期限切れの外国人を働かせ続けると「不法就労助長罪」に問われます。しかしこれを「解雇」として処理すると、解雇予告等が必要となり実務上矛盾が生じます。在留資格がない=就労不可であるため、労働契約の継続自体が不可能です。

事前の対策: 就業規則に「当然退職(自動退職)規定」を盛り込みます。
例:「在留期間が更新されなかった場合、または就労可能な在留資格を喪失した場合は、その喪失日をもって退職とする。」

事後の対策: この規定を入れることで、「解雇」ではなく「資格喪失による自動的な契約終了」として安全に処理できます。ただし、在留期間の満了前に更新・変更を申請している場合は、審査結果が出るまでの一定期間(特例期間。原則として満了日から2ヶ月)は従前の在留資格で就労を継続できます。
したがって、当然退職の起点となるのは「特例期間も含めて就労可能な在留資格を失った日」であり、更新申請中の社員をこの規定で自動退職扱いしないよう注意が必要です。

 ③ 離婚による在留資格の変更(「日本人の配偶者等」の在留資格)

「日本人の配偶者等」のビザは、離婚した瞬間に無効になるわけではありません。離婚後14日以内に入管への届出義務はありますが、ビザ自体は在留期限までなお有効であり、配偶者としての活動を継続して6ヶ月以上行わない場合に在留資格の取消対象となり得ます。
そのため、「離婚=即就労不可」と早合点して即時解雇すると不当解雇リスクが生じます

対策: 家族関係を随時把握する体制を整え、離婚など身分関係に変更が生じた場合は速やかに会社へ報告するよう注意喚起を徹底しましょう。

 ④ 失踪した場合(連絡が取れず出社しなくなった)

無断欠勤が続くからといって、勝手に解雇扱いや給与を没収することは違法です。放置すれば社会保険料の会社負担分が発生し続け、入管への届出義務違反にもなります。

事前の対策: 就業規則に「無断欠勤が〇日(例:14日)以上に及び、会社からの連絡に応じず就労意思がないと認められる場合は退職とみなす」という自然退職規定を設けます。

事後の対策: 規定日数が経過したら自然退職として処理し、社保等の喪失手続きを行います。同時に入管へ「所属機関に関する届出」を確実に行い、管理責任を果たした事実を国へ報告します。
※未払い給与は本人が取りに来るまで会社で預かる等の対応が必要です。なお、賃金請求権の消滅時効は当分の間3年です。連絡が取れないまま長期化する場合は、供託(弁済供託)も選択肢となります。

3. 押さえるべき「3つの外国人労働者特有手続き」と法的義務

以下の項目を棚卸しし、それぞれについて「金額・解約または出口タイミング・活用目的」を整理してみてください。これを一覧にして見える化するだけで、多くのオーナー社長が「こんなに資産が分散していたのか」「退職金原資がこんなに少ないとは」と気づきます。

 ① ハローワークへの「外国人雇用状況届出」の義務

雇用保険の加入有無に関わらず、すべての外国人労働者(特別永住者を除く)について退職した翌月末までの提出が義務付けられています(雇用保険対象者の場合は「資格喪失届」で兼ねられるため退職の翌日から起算して10日以内)。
この提出を怠ると30万円以下の罰金の対象となります。

 ② 出入国在留管理庁(入管)への届出の案内

就労ビザを持つ外国人は退職後14日以内に入管へ自ら「所属機関に関する届出」を提出する義務があります。会社に代行義務はありませんが、本人が怠ると将来のビザ更新で不利益を被ります。
トラブル回避のため、退職合意書等で「会社側から確実に本人へ案内した事実」を残すことが重要です。

 ③ 住民税の「一括徴収」または「普通徴収への切り替え」

退職後に帰国する場合、普通徴収(自己納付)にすると税金の未納トラブルに発展するケースが発生します。最後の給与から一括徴収するか、納税管理人を定める等の対策をとります。

【POINT】

1月1日から5月31日までの間に退職する場合は、地方税法の規定により、本人の希望に関わらず残りの住民税を最後の給与等から一括徴収することが「会社の法定義務」となります。

項目
日本人労働者の退職時
外国人労働者の退職時(相違点とリスク)
社会保険手続き
(健保・厚生年金)
退職翌日から起算して5日以内に、資格喪失届を提出。(対象者のみ)
左に同じ、相違なし
ハローワーク手続き
(雇用保険)
雇用保険被保険者資格喪失届の提出(対象者のみ)
【全員義務】退職翌月末日までに届出必須。
※雇用保険加入者は退職の翌日から起算して10日以内までに提出
入管への届出
不要(関係なし)
【本人義務】退職から14日以内に入管へ届出が必要。会社は退職時に案内を行う。
住民税の精算
時期に応じ、一括徴収または普通徴収の選択
【帰国時は一括徴収推奨(1〜5月退職は義務)】普通徴収は未納リスク大。全額一括徴収を推奨。
年末調整
年の途中で退職する場合は原則行わず、源泉徴収票を交付。
【帰国時は退職時に実施】帰国により非居住者となる場合は、出国時年末調整を行う。
退職後の在留資格
不要(関係なし)
転職活動を行わず3ヶ月以上経過すると、就労ビザが取り消される対象となる。

4. 帰国時の重要制度「脱退一時金」の概要と企業のサポート

外国人が完全に母国へ帰国する場合、支払っていた年金保険料が無駄になるという懸念を抱くことがあります。これを解消し円滑な帰国を促すために知っておくべき仕組みが「脱退一時金制度」です。

 脱退一時金制度の概要

年金制度の被保険者期間が「6ヶ月以上」あり、年金受給要件(原則10年)を満たさないまま日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求を行うことで、保険料の一部が返金される制度です。

要件項目
基準と実務上の留意点
1. 国籍要件
日本国籍を有していないこと。
2. 被保険者資格
公的年金制度(厚生年金または国民年金)の被保険者でないこと。
3. 加入期間(月数)
納付済期間等の月数の合計が「6ヶ月以上」あること。※未納期間は除外
4. 老齢年金受給資格
老齢年金の受給資格期間(原則10年間)を満たしていないこと。
5. 障害年金受給歴
過去に障害基礎年金や障害厚生年金等を受ける権利を有したことがないこと。
6. 住所要件
日本国内に住所を有していないこと(市区町村へ転出届を提出していること)。
7. 請求期限
最後に被保険者資格を喪失した日から「2年以内」(実務上は住所を有しなくなった日から2年以内)。

 支給対象期間の上限と法改正の動向

現在は上限が「60ヶ月(5年)」まで拡大されています。特定技能等の外国人労働者が5年間満期で働いた場合、その全期間分の納付実績に応じた額(数十万円〜100万円超)を受け取ることが可能です。

【重要:制度改正の決定】
2025年成立の年金制度改正法により、支給上限は5年から8年(96ヶ月)に引き上げられることが決定しています。施行は公布から4年以内の政令で定める日で、施行までは現行の60ヶ月上限が適用されます。あわせて、再入国許可付きで出国した場合は許可の有効期間内は脱退一時金を支給しないこととされます。

 税務上の注意点:20.42%の源泉徴収と還付手続き

支給の際、20.42%の所得税が源泉徴収された状態で海外口座へ振り込まれます。退職前に日本国内に「納税管理人」を定めておき、その管理人を通じて確定申告(還付申告)を行うことで還付を受けることができます。

【脱退一時金にかかる所得税】

○非居住者の方が支給を受ける厚生年金保険の脱退一時金は、その支給の際に、20.42%の税金が源泉徴収されます。ただし、 「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署に提出することで、源泉徴収された税金の還付を受けられる場合があります。(※国民年金の脱退一時金は、源泉徴収されません。)

 なぜ企業がこれをサポートすべきなのか?

申請手続き自体は本人が出国後に行うため会社の義務ではありませんが、以下の理由から退職時のサポート体制をとることを推奨します。

  • ① 不法滞在・失踪の抑止:
    「帰国後に申請すると行政からまとまったお金が戻ってくる」ことを周知することで、不法に国内に残留するリスクを大きく低減させます。
  • ② 企業ブランド・リファラル採用への貢献:
    最後の帰国まできちんと面倒を見てくれた企業として現地で良い評判が広がり、新たな人材の紹介等、長期的な経営利益へと繋がります。

5.その他トラブルを未然に防ぐためのチェックポイント

確認漏れが会社の致命傷にならないよう、以下の点も確認を推奨します。

 社宅・寮の原状回復費用の精算ルールの明確化

退職して帰国する際、清掃費用や修繕費用を巡ってトラブルになるケースが多発しています。事前に多言語による賃金控除協定書を取り交わしておくことが重要です。

【POINT】

労働基準法第24条(賃金全額払いの原則)の観点から、金額が確定していない修繕費などを一方的に給与から天引きすることは違法リスクがあります。退去時の立ち会い等で「具体的な請求金額」を提示し、改めて本人から【個別具体的な書面での同意】を得るプロセスをルール化しましょう。

 「退職証明書」等の迅速な発行体制

国内で転職する場合、次の会社での在留資格変更やハローワーク手続きで「退職証明書」や「離職票」が必要です。発行が遅れるとトラブルリスクが上昇するため、退職後速やかに発行するよう指示徹底をしましょう。

 帰国時の「航空券代」の負担ルールの確認

「技能実習」「特定技能」等は、帰国時の旅費を企業等が負担することが法令で義務付けられている場合があります。それ以外の資格は原則負担義務はありませんが、在留資格ごとの費用負担義務を把握しておく必要があります。

ワンポイントアドバイス

まとめ・連載総括

3回にわたり、外国人雇用のリスクと実務を解説してきました 。現場では入管法と労働法が複雑に絡み合っており 、退職時の手続きを1つ放置しただけで、罰則や今後の採用ルート即座にストップするという経営リスクに直結します 。
特に2027年からは、技能実習に代わり「育成就労制度」がスタートします。外国人を単なる労働力ではなく、中長期的なコア人材として「育成・確保」する時代への大転換です。 今後「特定技能」への移行が進めば最長8年以上の就労が可能となり、さらに「特定技能2号」に移行すれば在留期間の更新回数に上限がなくなり、家族帯同も可能となります(なお、同一分野内での転職は特定技能1号でも認められています)。つまり、これからは「条件や環境の悪い会社からは、優秀な外国人から順番に逃げていく」というリアルな離職リスクに直面することになります。
これからの時代、外国人労働者に「選ばれる企業」になれなければ、人手不足を勝ち抜くことはできません 。入社から退職まで法令を遵守し 、言葉の壁を言い訳にせず、彼らと同じ目線に立った適正な労務管理の仕組みを構築すること。これこそが、中小企業にとって最大の防衛策であり、生き残るための必須条件です。

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法改正を見据えた就業規則の見直しや、現場のトラブルを未然に防ぐ防衛策の構築については、ぜひミカタ社会保険労務士法人までお気軽にご相談ください。

【免責事項】
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品・保険商品の購入や税務上の判断を推奨するものではありません。記載の税制・制度は2026年6月時点の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。具体的な判断については、税理士・FP等の専門家にご確認ください。

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